2006年 08月 10日
名もなき園児たちの挿話。
今日は壬生寺幼稚園の入園試験。今年もこの幼稚園に入るべく試験に挑む子供達がいた。
「じゃあ皆、これからこのお兄ちゃんが質問するから、一生懸命考えて答えて下さいね」
「「はーい!」」
保育士からの説明を聞き、子供達は手を挙げて返事をした。質問をするのはどうやら上級生のようだ。
「では進藤くん、お願いね」
「はい」
保育士から名簿を渡され、席から立ったのはこの春から年長になる進藤勝五郎。今回の入園試験では出題者という大役を努める事になった。
この幼稚園では年齢ごとの組み分けがされておらず、園児は全員「しんせん組」に入る事になっている。よって、今回の入園試験に受かった子供と進藤は同じ組になるのだ。勿論保育士による面接なども行われるが、年齢の違う園児とも仲良くやっていけるかを見るこの試験は恒例となっている。
「では、これから名前を呼ばれたら返事をして前に出てくるように」
名簿を広げ、進藤は幼稚園児とは思えないほど大人びた口調で話し始めた。
「一人目、明石正親くん」
「おぅ」
進藤とは対照的に、斜に構えたような返事をした子供が立ち上がる。態度だけ見ると進藤より年上に見える明石は、肩で風を切るように歩いてきた。
「で、質問ってなんだよ」
「これから僕が質問する事に答えてほしい」
「おぅよ、何でもこい」
進藤は明石の目を見て言った。
「君の夢は?」
「夢?」
「そう、君の将来の夢は何だ?」
進藤は真直ぐ明石の目を見たまま聞く。明石も負けじと進藤の目を見返す。しばらく見つめ合っていた両者だが、ふいに明石が目を逸らす。そして思いきったように顔を上げると、
「俺には‥この明石正親には夢がある!」
勢いよく切り出した明石だが、進藤に全く臆する様子はない。
「で、その夢とは?」
「まぁ、教えてやるほどのものじゃないんだけどよ‥」
「では不合格という事で‥」
「待て!教えてやるから聞けって!」
慌てて止める明石。勿体ぶって不合格になってしまっては意味がない。名簿に×を付けようとする進藤を何とか止めた。
「俺の夢はだなぁ、まぁ要するに正義の味方だな。弱気を助け、悪しきを挫く。そんなスーパーヒーローになりたいわけよ」
そう語る明石の目はキラキラと輝いている。心からヒーローに憧れている事がひしひしと伝わってきた。
「そうか、それが君の夢か」
「おぅよ、悪いか」
「‥分かった。では席に戻って」
挑発的な明石にも動じず、進藤は名簿に何かを書き込みながら質問の終了を告げた。
「何だよ、もう終わりかよ」
「あぁ、だから早く席に戻れ」
「分かったよ、じゃあな」
捨て台詞のようにそう言うと、明石は大きな態度のまま席に帰っていった。
「次、真田鉄之介くん」
「はいっ」
元気よく返事をした鉄之介は前に出ると、進藤にペコリとお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
「あぁ、では質問だ。君の夢は何だ」
明石の時と同じように、進藤は鉄之介に問うた。
「んーと、えーと、ぼくの夢は、かわいい女の子とたくさん仲良くなって、イチャイチャする事です」
「‥イチャイチャ、か?」
「はい、いっぱいイチャイチャしたいです」
「それが‥君の夢か」
「はいっ」
鉄之介も明石同様、目を輝かせて返事をした。その表情に邪気は全く感じられない。
「そうか‥」
予測外の答えが返ってきたため、進藤は一瞬動揺したが鉄之介の目を見れば本気で答えている事は分かる。
「分かった、では席に戻って」
「はい、ありがとうございました」
鉄之介はまたペコリと頭を下げ、席に戻っていった。
進藤は少し考えた後、名簿に印を付けた。
「次っ!‥」
こうして入園試験は順調に進んでいった。
「えー、本日は入園おめでとうございます。副園長のひじ、かた、っです!」
以前からこの幼稚園にいる園児や保育士達にとっては見慣れたものであるが、その独特な自己紹介に入園した園児達も、その保護者も、目を点にさせるしかなかった。
園長の席には何故かパンダのぬいぐるみが置かれ、代わりに副園長の土方先生が挨拶を行っている。壬生寺幼稚園ではこのスタイルが基本なのだ。
入園試験から数カ月、今日は入園式。明石も鉄之介も、めでたく今日からしんせん組の一員となった。
「今日から君達も、しんせん組の仲間です。年の違うお友達がたくさんいます。仲良くやっていきましょう」
「「はーいっ!」」
新入生が一斉に元気な返事をした。明石が「副園長、かっこいいぜ‥」と呟いていた事に気付いた者はいない。一方鉄之介は「パンダさんだぁ、かわいいなぁ」と、何の疑問も持ってはいなかった。
これから始まるしんせん組での生活、一体どうなる事やら。
きつねのしっぽさんのリクエストより「さんにんのかいの幼稚園児バージョン」から新選組版を書いてみました。
幼稚園児で最初に思い付いたのは新選組だったので。
今回はかなり短かめでしたが、他にもいろいろネタは考えているのでまた続きが書けたらいいなぁ、と思います。
「じゃあ皆、これからこのお兄ちゃんが質問するから、一生懸命考えて答えて下さいね」
「「はーい!」」
保育士からの説明を聞き、子供達は手を挙げて返事をした。質問をするのはどうやら上級生のようだ。
「では進藤くん、お願いね」
「はい」
保育士から名簿を渡され、席から立ったのはこの春から年長になる進藤勝五郎。今回の入園試験では出題者という大役を努める事になった。
この幼稚園では年齢ごとの組み分けがされておらず、園児は全員「しんせん組」に入る事になっている。よって、今回の入園試験に受かった子供と進藤は同じ組になるのだ。勿論保育士による面接なども行われるが、年齢の違う園児とも仲良くやっていけるかを見るこの試験は恒例となっている。
「では、これから名前を呼ばれたら返事をして前に出てくるように」
名簿を広げ、進藤は幼稚園児とは思えないほど大人びた口調で話し始めた。
「一人目、明石正親くん」
「おぅ」
進藤とは対照的に、斜に構えたような返事をした子供が立ち上がる。態度だけ見ると進藤より年上に見える明石は、肩で風を切るように歩いてきた。
「で、質問ってなんだよ」
「これから僕が質問する事に答えてほしい」
「おぅよ、何でもこい」
進藤は明石の目を見て言った。
「君の夢は?」
「夢?」
「そう、君の将来の夢は何だ?」
進藤は真直ぐ明石の目を見たまま聞く。明石も負けじと進藤の目を見返す。しばらく見つめ合っていた両者だが、ふいに明石が目を逸らす。そして思いきったように顔を上げると、
「俺には‥この明石正親には夢がある!」
勢いよく切り出した明石だが、進藤に全く臆する様子はない。
「で、その夢とは?」
「まぁ、教えてやるほどのものじゃないんだけどよ‥」
「では不合格という事で‥」
「待て!教えてやるから聞けって!」
慌てて止める明石。勿体ぶって不合格になってしまっては意味がない。名簿に×を付けようとする進藤を何とか止めた。
「俺の夢はだなぁ、まぁ要するに正義の味方だな。弱気を助け、悪しきを挫く。そんなスーパーヒーローになりたいわけよ」
そう語る明石の目はキラキラと輝いている。心からヒーローに憧れている事がひしひしと伝わってきた。
「そうか、それが君の夢か」
「おぅよ、悪いか」
「‥分かった。では席に戻って」
挑発的な明石にも動じず、進藤は名簿に何かを書き込みながら質問の終了を告げた。
「何だよ、もう終わりかよ」
「あぁ、だから早く席に戻れ」
「分かったよ、じゃあな」
捨て台詞のようにそう言うと、明石は大きな態度のまま席に帰っていった。
「次、真田鉄之介くん」
「はいっ」
元気よく返事をした鉄之介は前に出ると、進藤にペコリとお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
「あぁ、では質問だ。君の夢は何だ」
明石の時と同じように、進藤は鉄之介に問うた。
「んーと、えーと、ぼくの夢は、かわいい女の子とたくさん仲良くなって、イチャイチャする事です」
「‥イチャイチャ、か?」
「はい、いっぱいイチャイチャしたいです」
「それが‥君の夢か」
「はいっ」
鉄之介も明石同様、目を輝かせて返事をした。その表情に邪気は全く感じられない。
「そうか‥」
予測外の答えが返ってきたため、進藤は一瞬動揺したが鉄之介の目を見れば本気で答えている事は分かる。
「分かった、では席に戻って」
「はい、ありがとうございました」
鉄之介はまたペコリと頭を下げ、席に戻っていった。
進藤は少し考えた後、名簿に印を付けた。
「次っ!‥」
こうして入園試験は順調に進んでいった。
「えー、本日は入園おめでとうございます。副園長のひじ、かた、っです!」
以前からこの幼稚園にいる園児や保育士達にとっては見慣れたものであるが、その独特な自己紹介に入園した園児達も、その保護者も、目を点にさせるしかなかった。
園長の席には何故かパンダのぬいぐるみが置かれ、代わりに副園長の土方先生が挨拶を行っている。壬生寺幼稚園ではこのスタイルが基本なのだ。
入園試験から数カ月、今日は入園式。明石も鉄之介も、めでたく今日からしんせん組の一員となった。
「今日から君達も、しんせん組の仲間です。年の違うお友達がたくさんいます。仲良くやっていきましょう」
「「はーいっ!」」
新入生が一斉に元気な返事をした。明石が「副園長、かっこいいぜ‥」と呟いていた事に気付いた者はいない。一方鉄之介は「パンダさんだぁ、かわいいなぁ」と、何の疑問も持ってはいなかった。
これから始まるしんせん組での生活、一体どうなる事やら。
きつねのしっぽさんのリクエストより「さんにんのかいの幼稚園児バージョン」から新選組版を書いてみました。
幼稚園児で最初に思い付いたのは新選組だったので。
今回はかなり短かめでしたが、他にもいろいろネタは考えているのでまた続きが書けたらいいなぁ、と思います。
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by
きつねのしっぽ
at 2006-08-10 22:42
x
ひゃっほ~っ♪ ・・・よだれ出ちゃった(笑)
もう、最高ですね! さすがです(^o^)丿
それぞれのキャラをいかして、ちびっこ新撰組が入園の手続きをするなんて
可愛いストーリーなんですけれど、まさしく「入隊」シーンのイメージ通り。
舞台を思い出しました。
園庭を思い切りはしゃいで遊んでいる鉄之介が脳裏に浮かびました。
ふふふw
もう、最高ですね! さすがです(^o^)丿
それぞれのキャラをいかして、ちびっこ新撰組が入園の手続きをするなんて
可愛いストーリーなんですけれど、まさしく「入隊」シーンのイメージ通り。
舞台を思い出しました。
園庭を思い切りはしゃいで遊んでいる鉄之介が脳裏に浮かびました。
ふふふw
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feeling_leaf at 2006-08-11 19:05
by feeling_leaf
| 2006-08-10 18:08
| おはなし
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Comments(2)