カテゴリ:おはなし( 14 )

初めての家出 3。

 うどん屋のおばさんは「今度またパパと食べに来てくれるなら、今日はお金いらないから」と言ってくれた。ぼく達はおばさんにお礼を言って、お店を出た。外はもう陽が落ち始めている。
「ねーねーまやちゃん、もっととおくにいくの?」
「そうよ、だって家出したんだもん」
「でももうすぐゆうごはんだよ。はやくかえらないと、まやちゃんのママもしんぱいするよ」
「‥心配なんてしないわよ。だってママ『我が侭ばかり言う子は嫌いよ』って言ってたもん」
 まやちゃんは俯いてそう言った。ケンカした時に言われたのかな。
「だから、ママはまやの事嫌いなんだもん‥‥」
 まやちゃんが泣きそうな顔してる。こんな顔、初めて見た。
「でもまやちゃんのママは『我が侭言う子は嫌い』っていったんでしょ?だからまやちゃんがわがままいわなきゃきらいにはならないんじゃない?」
「‥そうかなぁ」
「そうだよ。だってまやちゃん、まやちゃんのママのこときらいなの?」
「‥ううん、嫌いじゃない」
「ならまやちゃんがわがままいわなきゃいいんだよ」
「‥‥そっか、そうよね。まやがわがまま言わなきゃいいんだ」
 俯いたまやちゃんの顔が上がった。目の端っこに涙がたまってたように見てたけど、もう大丈夫みたい。
「じゃ、もうかえろ」
「そうね、そろそろ帰らないと夕ご飯に間に合わなくなっちゃうもんね」
 そう言っていざ帰ろうとした時、ある事に気が付いた。
「‥ねーねーまやちゃん、かえりみちわかる?」
「え?かっぺー君帰り道分からないの?」
「うん、だってこんなとおくまできたことないもん」
「でもさっき『パパとまえにきたことある』って言ってたじゃない」
「きたことはあるけど、このまえはパパといっしょだったもん‥」
「どうすんのよ、このままじゃまや達帰れないわよ!」
「うん‥まやちゃん、どーしよう‥‥」
 だんだん話してるうちに心細くなってきた。お家に帰れない。ママもパパもいない。どうすればいいんだろう‥。
「ふぇ‥まやちゃん、ぼくおうちかえりたい‥」
 だんだん涙で目の前がぼやけてくる。このまま帰れなくなっちゃったらどうしよう。その事で頭がいっぱいになっていた。
「やだ、泣かないでよかっぺー君。まやも泣いちゃうでしょ‥」
 ぼくを叱りながら、まやちゃんの目にも涙がたまってきた。そんなまやちゃんを見たら、余計に涙が溢れてくる。
「ふえ〜ん、ママ〜!」
 遂に我慢出来なくなって、ぼくは泣き出してしまった。それにつられるように、まやちゃんも
「ママ〜、ごめんなさ〜い!」
と泣き出した。
 一度泣き出すと止まらない。うどん屋さんの前で二人とも泣き続けた。
 そのうちに、ぼく達の声に気付いたうどん屋さんのおばさんが出てきて、ぼく達をまた店の中に入れてくれた。
「二人ともどうしたの?ママに迎えに来てもらう?」
と言ってくれたので、ぼく達は頷いた。
「じゃ、お家の電話番号言える?」
 おばさんにそう聞かれて、ぼくは困ってしまった。お家の電話番号‥分かんない。
「‥うん、えっと‥」
 でもまやちゃんは、ちゃんとおばさんに電話番号を言えた。それを聞いて、おばさんはまやちゃんの家に電話をしてくれた。よかった、これでお家に帰れそう。
「二人とも、もうすぐママが迎えに来てくれるからね」
 おばさんが奥から顔を出しながら笑って言ってくれた。その言葉を聞いて、やっと安心した。
「よかったねまやちゃん。おうちかえれるよ」
「うん‥でもまだママ怒ってるかな‥」
「だいじょうぶだよ。ちゃんと『ごめんなさい』っていえば、まやちゃんのママもゆるしてくれるよ」
「‥そうかな」
「うん、そうだよ」
 まやちゃんはまだ不安そう。家出するくらいだから、そんなにすごいケンカだったのかな。でもまやちゃんのママも、まやちゃんがちゃんと謝れば許してくれるよね、きっと。


 しばらくすると、ママとまやちゃんのママが迎えに来てくれた。
「麻弥!」
「ママ〜!」
 まやちゃんは、走ってまやちゃんのママに飛びついた。よっぽど心細かったんだ。
「ママ‥ごめんなさい」
 まやちゃんはちゃんと謝った。まやちゃんのママは笑顔でまやちゃんを抱きしめ、頭を撫でた。よかった、仲直り出来て。
「勝平!」
「あっ、ママ!」
 ママも来てくれた。さっきまでぼくも心細かったけど、ママの顔見たらやっと安心出来た。
「勝平、ママ心配したんだから。もう家出なんてしちゃだめよ」
「うんわかった。ママごめんなさい」
 ぼくもママに心配かけちゃったんだ。だからぼくも、まやちゃんと同じように謝った。
「よし、約束だからね」
 そう言って、ママは小指をぼくに差し出した。
「うん、やくそくね」
 ぼくも小指を出して、ママと指切りした。
 ぼく達はそのままうどん屋さんでうどんを食べた。ぼくはまたきつねうどんを食べたけど、まやちゃんは天ぷらそばを食べていた。
 そしてママと「パパにはおうどん食べたの内緒ね」って約束した。パパと来た事はママには内緒、ママと来た事はパパには内緒。パパともママとも約束したけど、今度はパパとママと、それからまやちゃんとまやちゃんのパパとママと、皆で一緒にうどん食べたいな。


「かっぺー君、今日はまやと一緒に探検するわよっ!」
 次の日、幼稚園でまやちゃんが急に言い出した。
「え?まやちゃんまたいえでするの?」
「違うわよ。かっぺー君まやの話ちゃんと聞いてた?家出じゃなくて、探検するの!」
「たんけん?」
「そう、探検。今度はちゃんとママに言ってから出かけるの。だから探検なの、分かった?」
「う、うん。わかった‥」
「じゃ、一度お家に帰ったらまた公園に集合よ。昨日みたいに待たせたりしたら許さないからね!」
 まやちゃんは相変わらず強引で、ぼくは今度もまやちゃんに引っ張り回される事になりそうだ。
 でも探検するのも楽しそうだし‥ま、いっか。


これで完結です。
ちょっと長くてごめんなさい。
お付き合い下さり、有難うございました。
こむぱらの感想は明日書こうと思います。
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by feeling_leaf | 2007-01-05 19:41 | おはなし | Trackback | Comments(0)

初めての家出 2。

 公園を出てどのくらい歩いただろう。いつもはママやパパと車で行く所も、まやちゃんと二人で歩いてるとずいぶん遠くに来たような気がする。
「ねーねーまやちゃん、どこまでいくの?」
「どこまでって、そんなの決めてないわよ。家出なんだから」
「『いえで』ってどこいくか、きめないの?」
「そうよ、家出っていうのはあてもなく家を出てきちゃう事なんだから。そんな事も知らないの?」
「うん。だってママにだまってでかけちゃいけないんだよ。あとでママにおこられちゃうもん」
「かっぺー君、ママに怒られるのがそんなに恐いの?男の子のくせにホントだらしないんだから」
 まやちゃんは呆れながら、どんどん先に歩いてく。その後をぼくは急いで追いかける。どこに行くのか分からないし、ママもパパもいないからすごく不安だけど、でもまやちゃんに置いていかれるのも心細い。だから一生懸命追いかける。
 まやちゃんは不安じゃないのかなぁ。後ろ姿からは分からないけど。
「あ〜あ、何だかお腹すいてきちゃった」
  振り返りもせず、まやちゃんが突然言い出した。まやちゃんが「お腹すいた」って言うのはいつもの事だから、ぼくは特別驚いたりしない。でも今はぼくも歩きっぱなしでお腹がすいていた。
「うん、ぼくもちょっとおなかすいた。まやちゃんおかしとかもってる?」
「持ってないわよ。かっぺー君が遅れてきたから、待ってる間に食べちゃったもん。かっぺー君何か持ってないの?」
「ぼくヨーヨーと、ムシキングのカードしかもってないよ」
「かっぺー君そんな物しか持って来なかったの?そんなの家出するのに何の役にも立たないじゃない。全く使えないわねぇ、かっぺー君って」
「だってなにもってこればいいのかわかんなかったんだもん‥」
「もぉ〜、しょうがないわねぇ。じゃお金は持ってる?」
「ううん、もってない」
「はぁ‥ホントに役に立たないんだから」
「じゃあまやちゃんはもってるの?」
「少しなら持ってるわよ」
「すっげー!まやちゃんおこづかいもってるんだぁ」
「そりゃそうよ。今どきは幼稚園児でもおこづかいくらい持ってなきゃ」
「じゃ、そのおかねでなにかたべれるね」
「え〜、どうしてまやがかっぺー君におごらなきゃいけないの?普通は男の方がおごるのよ」
「だってぼく、おかねもってないんだもん‥」
「しょうがないわねぇ。今回はまやがおごってあげる。その代わり今度はかっぺー君がおごるんだからね」
「うん、わかった」
 話はまとまり、ぼくとまやちゃんは近くのうどん屋さんに入った。ここはぼくが前にパパと一緒に来た事があるお店だ。「ママには内緒だぞ」ってパパが言ってたから、ママとは来た事ないけど。
 引き戸を開けると中から「いらっしゃいませ〜」とおばさんの声がした。そのおばさんはぼくの事を覚えていたらしく、ぼくの顔を見ると
「あら、勝平君こんにちは。今日はパパと一緒じゃないの?」
と声を掛けてくれた。
「ううん。きょうはパパじゃなくて、まやちゃんといっしょなの」
と答えると、まやちゃんはおばさんに「こんにちは」と挨拶した。
「はい、こんにちは。偉いわねぇ、ちゃんとご挨拶出来て」
と言いながら、おばさんはぼくとまやちゃんを席に案内してくれた。
「今日は何食べるの?お金はちゃんと貰ってきたのかな?」
 おばさんにそう聞かれたので、
「うん、おかねはまやちゃんがもってるよ」
と答えた。まやちゃんは机の上にピンクのお財布を出し、
「これだけありますけど、おうどん食べられますか?」
と、おばさんに聞いた。机には百円玉が三枚と、十円玉が四枚ある。
 おばさんはお金を見て、少し考えると
「う〜ん、本当はダメなんだけど‥ちょっと待っててね」
と、お店の奥に入っていった。
「ねーねーまやちゃん、うどんたべられるかなぁ?」
「分かんないけど‥大丈夫じゃない?」
「どうして?」
「どうしてって‥まやが『大丈夫』って言ってんだから大丈夫なのっ!」
「わ、わかった‥」
 やっぱり今日のまやちゃんはいつもより機嫌が悪い。こういう時は、何を言っても怒られちゃうから大変なんだよね。
 しばらくすると、おばさんがプラスチックのどんぶりを二つ、お盆の上に乗せて戻ってきた。
「本当はお金足りないんだけど、今日は特別におばちゃんが奢ってあげるから。これだけしかないけど、我慢してね」
と、ぼくとまやちゃんの前にどんぶりを置いてくれた。うどんの上に三角に切った油揚げが一枚。
「おばさん、ありがとう」
 まやちゃんと二人でお礼を言った。おばさんはニッコリ笑って、仕事に戻っていった。
 ぼくは両手を合わせて「いただきます」と言い、うどんを食べ始めた。
 でもまやちゃんはうどんに手を付けようとしない。いつもならぼくより早く食べ始めるはずなのに。
「まやちゃん、どうしたの?」
「‥ううん、何でもない。いただきます」
 まやちゃんも、ぼくと同じように手を合わせた後、うどんを食べ始めた。


昨日の続きです。
明日には終わるかな。
こむぱらの感想がずれると思いますが、ご了承下さい。
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by feeling_leaf | 2007-01-04 18:54 | おはなし | Trackback | Comments(0)

初めての家出。

 ある日、まやちゃんがぼくにこう言った。
「かっぺー君、今日はまやと一緒に家出するわよっ!」
「いえで?」
「そうよ、もうママなんて嫌いだもん。だから家出するの」
「どうしてぼくもいえでするの?」
「だってこんなかわいい子が一人で歩いてたら誘拐されちゃうかもしれないでしょ?」
「ふたりでもゆーかいされちゃうかもしれないよ」
「あーもうっ、うるさいわねぇ!まやが行くって言ってるんだからかっぺー君も行くの!」
「う‥うん、わかった‥」
 という訳で、ぼくはまやちゃんと一緒に家出することになった。でもぼく、ママもパパも好きなのに、なんで家出しなくちゃいけないのかなぁ。


 幼稚園から帰ると、ぼくは家出の支度を始めた。でも家出って何を持っていけばいいのか分からない。とりあえず宝物のヨーヨーとムシキングのカードをリュックの中に入れて、背中にしょった。
「勝平、どこ行くの?」
 玄関でママにそう聞かれたから、ぼくは
「きょうはね、まやちゃんといえでするの。こうえんでまやちゃんがまってるんだ。じゃ、いってきまーす!」
と答えて出かけた。ママの声が聞こえた気がしたけど、まやちゃんを待たせると怒られちゃうから早く行かなきゃ。
 ぼくは走ってまやちゃんと待ち合わせしている公園へ向かった。


 公園に着くと、もうまやちゃんがすべり台の下で待っていた。走ってきたけど、間に合わなかったみたい。ぼくを見つけると、やっぱりまやちゃんは怒り出した。
「もぉ〜、遅いわねぇかっぺー君。女を待たせるなんて男として最低よ!」
「はぁ、はぁ‥ご、ごめんねまやちゃん‥」
「ま、いいわ。ところで、ちゃんと書き置きしてきたんでしょうね?」
「かきおき‥?あっ、わすれちゃった‥」
 幼稚園でまやちゃんに「お家を出る時に『さがさないでください』って書き置きしてくるのよ」って言われてたのに、何を持っていこうか迷ってるうちに忘れちゃった。
「忘れたの?しょうがないわねぇ、全く」
「ごめん‥でもだいじょうぶだよ。ママにちゃんと『まやちゃんといえでしてくる』っていってあるから」
「えっ?おばさんに言ってきちゃったの?ダメじゃない、家出っていうのは内緒で出てくるものなのに!何やってんのよかっぺー君は!」
「ご、ごめんなさい‥‥」
 さっきからまやちゃんは怒ってばっかりで、ぼくは謝ってばっかり。いつもの事だけど。
 今日のまやちゃんは幼稚園でもずっと機嫌が悪かった。どうやらまやちゃんのママに怒られたらしい。それでケンカになったんだって。
「きっとママはまやの若さにしっとしてるのよねっ!」ってまやちゃんは言ってたけど‥本当にそうかなぁ?
「しょうがないわねぇ、ま、いいわ。探しても見つからないくらい遠くに行っちゃえばいいんだから」
「え?まやちゃんそんなにとおくにいくの?」
「そうよ、だって家出だもん」
「いえでってとおくにいくことなの?」
「ちょっと違うけど‥まぁ似たようなもんじゃない?」
「そっかぁ、まやちゃんってなんでもしってるんだね」
「当たり前でしょ。ていうか、かっぺー君が知らなさすぎるのよ」
「そうなの?」
「そうなの。さ、グズグズしないで行くわよっ!」
 突然話を断ち切って、まやちゃんは歩き出した。
「あっ、まやちゃんまってよぉ〜!」


久し振りの小話です。
「ある日のアニキン幼稚園」に出てきた幼稚園児のかっぺー君とまやちゃんのお話です。
年賀状代わりにどうぞ。
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by feeling_leaf | 2007-01-03 19:12 | おはなし | Trackback | Comments(0)

名もなき園児たちの挿話。

 今日は壬生寺幼稚園の入園試験。今年もこの幼稚園に入るべく試験に挑む子供達がいた。

「じゃあ皆、これからこのお兄ちゃんが質問するから、一生懸命考えて答えて下さいね」
「「はーい!」」
 保育士からの説明を聞き、子供達は手を挙げて返事をした。質問をするのはどうやら上級生のようだ。
「では進藤くん、お願いね」
「はい」
 保育士から名簿を渡され、席から立ったのはこの春から年長組になる進藤勝五郎。今回の入園試験では出題者という大役を努める事になった。
 この幼稚園では年齢ごとの組み分けがされておらず、園児は全員「しんせん組」に入る事になっている。よって、今回の入園試験に受かった子供と進藤は同じ組になるのだ。勿論保育士による面接なども行われるが、年齢の違う園児とも仲良くやっていけるかを見るこの試験は恒例となっている。
「では、これから名前を呼ばれたら返事をして前に出てくるように」
 名簿を広げ、進藤は幼稚園児とは思えないほど大人びた口調で話し始めた。
「一人目、明石正親くん」
「おぅ」
 進藤とは対照的に、斜に構えたような返事をした子供が立ち上がる。態度だけ見ると進藤より年上に見える明石は、肩で風を切るように歩いてきた。
「で、質問ってなんだよ」
「これから僕が質問する事に答えてほしい」
「おぅよ、何でもこい」
 進藤は明石の目を見て言った。
「君の夢は?」
「夢?」
「そう、君の将来の夢は何だ?」
 進藤は真直ぐ明石の目を見たまま聞く。明石も負けじと進藤の目を見返す。しばらく見つめ合っていた両者だが、ふいに明石が目を逸らす。そして思いきったように顔を上げると、
「俺には‥この明石正親には夢がある!」
 勢いよく切り出した明石だが、進藤に全く臆する様子はない。
「で、その夢とは?」
「まぁ、教えてやるほどのものじゃないんだけどよ‥」
「では不合格という事で‥」
「待て!教えてやるから聞けって!」
 慌てて止める明石。勿体ぶって不合格になってしまっては意味がない。名簿に×を付けようとする進藤を何とか止めた。
「俺の夢はだなぁ、まぁ要するに正義の味方だな。弱気を助け、悪しきを挫く。そんなスーパーヒーローになりたいわけよ」
そう語る明石の目はキラキラと輝いている。心からヒーローに憧れている事がひしひしと伝わってきた。
「そうか、それが君の夢か」
「おぅよ、悪いか」
「‥分かった。では席に戻って」
 挑発的な明石にも動じず、進藤は名簿に何かを書き込みながら質問の終了を告げた。
「何だよ、もう終わりかよ」
「あぁ、だから早く席に戻れ」
「分かったよ、じゃあな」
 捨て台詞のようにそう言うと、明石は大きな態度のまま席に帰っていった。
「次、真田鉄之介くん」
「はいっ」
 元気よく返事をした鉄之介は前に出ると、進藤にペコリとお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
「あぁ、では質問だ。君の夢は何だ」
 明石の時と同じように、進藤は鉄之介に問うた。
「んーと、えーと、ぼくの夢は、かわいい女の子とたくさん仲良くなって、イチャイチャする事です」
「‥イチャイチャ、か?」
「はい、いっぱいイチャイチャしたいです」
「それが‥君の夢か」
「はいっ」
 鉄之介も明石同様、目を輝かせて返事をした。その表情に邪気は全く感じられない。
「そうか‥」
 予測外の答えが返ってきたため、進藤は一瞬動揺したが鉄之介の目を見れば本気で答えている事は分かる。
「分かった、では席に戻って」
「はい、ありがとうございました」
 鉄之介はまたペコリと頭を下げ、席に戻っていった。
 進藤は少し考えた後、名簿に印を付けた。
「次っ!‥」
 こうして入園試験は順調に進んでいった。


「えー、本日は入園おめでとうございます。副園長のひじ、かた、っです!」
 以前からこの幼稚園にいる園児や保育士達にとっては見慣れたものであるが、その独特な自己紹介に入園した園児達も、その保護者も、目を点にさせるしかなかった。
 園長の席には何故かパンダのぬいぐるみが置かれ、代わりに副園長の土方先生が挨拶を行っている。壬生寺幼稚園ではこのスタイルが基本なのだ。
 入園試験から数カ月、今日は入園式。明石も鉄之介も、めでたく今日からしんせん組の一員となった。
「今日から君達も、しんせん組の仲間です。年の違うお友達がたくさんいます。仲良くやっていきましょう」
「「はーいっ!」」
 新入生が一斉に元気な返事をした。明石が「副園長、かっこいいぜ‥」と呟いていた事に気付いた者はいない。一方鉄之介は「パンダさんだぁ、かわいいなぁ」と、何の疑問も持ってはいなかった。
 これから始まるしんせん組での生活、一体どうなる事やら。


きつねのしっぽさんのリクエストより「さんにんのかいの幼稚園児バージョン」から新選組版を書いてみました。
幼稚園児で最初に思い付いたのは新選組だったので。
今回はかなり短かめでしたが、他にもいろいろネタは考えているのでまた続きが書けたらいいなぁ、と思います。
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by feeling_leaf | 2006-08-10 18:08 | おはなし | Trackback | Comments(2)

Eチームのお花見 2。

「やっぱり葵はここにいたか。あ、小桃。あんたも一緒だったの?」
 葵の背後から声が掛かる。振り返ると、後ろには瞳が立っていた。
「瞳ももう回ってきたの?」
「まぁね。ビールとつまみも買ったし、一通り屋台も覗いたからもういいや」
 そう言う瞳の手にはビールがたくさん入ったビニール袋と、焼き鳥などの入ったパックがいくつかあった。
「ビールはともかく、おつまみはさっきたくさん買ったじゃない。瞳そんなにお腹空いてるの?」
 そう聞く小桃に瞳は、
「そんなの、どうせゴンが全部たいらげちゃってるよ。だから自分の分だけでも確保しとかなきゃと思ってさ」
と答える。それを聞いた葵も
「そうね、ゴンなら全部食べちゃうかも」
と納得する。
「えーっ、じゃ折角買ったベビーカステラもゴン食べちゃってるかなぁ。私楽しみにしてたのに〜」
 二人の会話に小桃は焦り出す。
「ゴンの事だから、きっと食べちゃってるでしょうね。念の為にもう一つ買ってく?」
 葵がそう言うと、小桃は
「そうする。じゃ、早く買ってゴンの所に戻ろ」
と、二人を急かした。
「そうね、ゴンも一人で退屈してるだろうし」
「食べるのに夢中になってて、私達の事なんて忘れてるかもよ」
 先に屋台へ向かった小桃を追い掛けるように、瞳と葵も後に続いた。


「皆遅いよー、待ちくたびれちゃったじゃん」
 場所取りしていた所に戻ると、不機嫌そうなゴンの声が出迎えた。ビニールシートの上にはゴンが食べ散らかした残骸が山となっている。
「ごめんごめん、ちょっと射的に夢中になっちゃって」
「それだけ食べてりゃ退屈なんてしてなかったでしょ」
「あ〜あ、やっぱりベビーカステラ食べちゃったんだ。よかった、もう一つ買ってきて」
 三人はそれぞれゴンに声を掛け、ビニールシートに座る。ゴミの山は隅へ寄せて、何とか三人が座る場所を確保した。真ん中に空いた小さなスペースに買い足したビールと食べ物を置く。
「その景品って全部射的で取ってきたの?流石葵だね」
「このぬいぐるみも葵に取ってもらったんだよ」
「屋台のおじさん泣いてたんじゃないの?」
「そろそろ勘弁してくれ、って言われちゃったから打ち止めにしたの。時間があったら景品全部撃ち落とそうかとも思ったんだけど」
「そこまでしたらおじさん可哀想だよ」
「でも葵ならやれるよね、絶対」
 葵の射的話でひとしきり盛り上がる。獲得した景品は皆で山分けした。お礼に、と小桃はオマケしてもらったりんご飴を葵にあげた。羨ましそうに見るゴンに「あれだけ食べてもまだ足りないの?」と突っ込む瞳。普段の訓練を忘れて、今だけは普通の女の子でいる四人。
 待ち切れない瞳はビールの缶をプシュ、と開ける。
「ねぇ、そろそろ始めようよ」
「そうね。皆、ビール持った?あ、小桃はジュースね」
「うん、ありがと」
「あ、待って待って。葵、私の分のビールも取って」
「早くしてよゴン。じゃ、皆いい?」
 久し振りの休日。頭の上で咲き誇る桜。風に乗って舞う花びら。そして気の置けない仲間達。この瞬間を皆で一緒に感じられる事に。

『かんぱーい!』


これで一応完結です。
お付き合い頂き、有難うございました。
幼稚園児のかっぺー君とまやちゃんのお話も書きかけのものが一つあるので、早く書きたいと思ってます。

明日は勝平さんのディナーショー、泊まり掛けで行くので明日明後日と更新は出来ません。
「こむぱら」の感想は後日書きますね。
それでは、行ってきます!
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by feeling_leaf | 2006-05-05 19:07 | おはなし | Trackback(1) | Comments(2)

Eチームのお花見。

「じゃあゴン、場所取り宜しくね」
「りょーかーい。でも早く帰って来てよ。一人じゃ退屈なんだもん」
「それだけ食べ物あるんだからしばらく時間潰せるでしょ。まぁなるべく早く戻ってくるから」
「少しは私達の分も残しといてよ。じゃちょっと回ってくるねー」
 今日は久し振りの休み。天気もいいし、時期もちょうどいいからとEチームの四人でお花見に来ていた。
 満開は少し過ぎてしまったが、まだ花は残っているので桜も十分楽しめる。尤も四人の興味は桜より屋台の方へと向いているようだが。
 瞳、葵、小桃の三人は場所取りをするゴンを残して、屋台巡りに向かった。ゴンは桜の木の下に敷かれたビニールシートに座り、手を振って見送っている。その回りには道すがら屋台で買った食べ物が山のように置かれていた。
「私これ食べながら場所取りしてるから、皆は屋台見てきなよ」
と、ゴン自ら名乗り出たのである。ゴンにとっては花より団子、輪投げや金魚すくいより焼そばとお好み焼きらしい。
 そんなゴンの言葉に甘え、三人はズラッと並ぶ屋台を一つ一つ覗いていた。
「ねぇねぇ何やる?」
「私は射的が出来れば後はいいわ。小桃は何が見たいの?」
「私はねぇ、りんご飴が食べたいなぁ。あと‥金魚すくい!」
「何でもいいから早く回ろうよ。私は途中でビールとつまみ買えればいいから」
「もぉ〜、瞳は飲む事しか考えてないの?」
「だって折角の花見だよ?酒飲まなくてどうするのよ」
「折角のお花見だからこそいろんな屋台見てみたい、って思うじゃない」
「まぁまぁ二人とも。ゴンを待たせてるんだから早くしなくちゃ。ここから別行動にする?」
「そうだね。じゃ、気が済んだらゴンの所に戻るって事で」
「じゃ、後でね」
 三人は銘々お目当ての屋台を目指して散らばった。


 パンッ!
 軽い破裂音と共に棚に並んだ景品が落ちた。射撃の名手である葵にとって屋台の射的など雑作もないが、やはり銃を持つと目付きが変わる。その証拠に、葵の横には今までに獲得した様々な景品が積まれていた。
「流石葵だね、こんなに取ったの?」
 葵がその声に振り向くと、りんご飴を手にした小桃がいた。
「小桃、もう一通り見てきたの?」
「うん、ざっと見てきただけだけどね。でもりんご飴買ったし、金魚すくいもしてきたからもういいんだ。‥一匹もすくえなかったけど」
「残念だったわね」
「うん。でもりんご飴の屋台のおじさんがね、『お嬢ちゃん可愛いからオマケしてあげる』ってもう一本くれたの」
 オマケしてもらえた事が嬉しいのか、「可愛い」と言われた事が嬉しいのか、金魚すくいで一匹もすくえなかったのに小桃は上機嫌だった。
「葵はまだ射的やるの?」
「あと一発で終わるから。小桃、何か欲しい景品ある?」
 葵は慣れた手付きでコルクの弾をこめる。小桃は棚に並んだ景品を見渡しながら
「ん〜、あ、あのぬいぐるみがいいなぁ」
と、小さなくまのぬいぐるみを指差した。
「了解。ちょっと待ってて」
 小桃の指定したぬいぐるみに照準を合わせる。一瞬の静寂の後、引き金が引かれ、コルクの弾がぬいぐるみの眉間に命中し、そのまま棚の後ろに落ちていく。
「わぁっ、凄い!一発で命中した!」
 小桃が歓声を上げる。逆に葵は当然と言わんばかりに表情一つ変えない。
「全く、これ以上お嬢さんに景品取られちゃうと商売あがったりだよ。この辺でそろそろ勘弁してくれないかい」
 ぬいぐるみを渡しながら、苦笑いを浮かべた店主が葵に話し掛ける。葵はぬいぐるみを受け取り、
「安心して下さい。これで終わりにしますから」
と笑った。そして
「はい、小桃」
と、ぬいぐるみを小桃に手渡す。
「うん。有難う葵。大事にするからね」
 小桃は両手でぬいぐるみを抱き締めるようにして喜んでいる。その笑顔に、葵の表情も柔らかくなった。


皆さんの優しいお言葉のお陰で、一気にラストを書き上げる事が出来ました。
そして今日書き上げたものをそのまま撮って出ししています。
今回は今までより短いお話なので次回で終わりますが、最後までお付き合い下さると嬉しいです。
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by feeling_leaf | 2006-05-04 15:47 | おはなし | Trackback | Comments(0)

猫の行方 4。

 同級生の家へ向かう足取りは軽い。今は茶々丸が猫を抱いている。僕だけでなく茶々丸にもすぐに懐いて、逃げるような事はなかった。本当に人懐っこい奴だ。
「ねぇねぇ兄ちゃん、これでもっと依頼が来るようになるかな」
「そうだな、こんなお手柄上げれば探偵団の名も少しは有名になるだろうしな」
 任務を果たした僕達の声は弾んでいた。名探偵にまた一歩近付けただろう。
 そんな雰囲気に水をさすように、携帯が鳴り出した。画面を見ると、依頼人の同級生だ。ナイスタイミング。
「はい、もしもし」
「もしもし、山口君?」
「うん、あのね、頼まれた猫の件だけど‥」
 僕は早速お手柄を報告しようとしたが、受話器の向こうの声がそれを遮った。
「実はね山口君、さっき猫が戻って来たの」
「え?」
「だからね、探してほしいって言ってた猫がさっき帰って来たの。だからもう大丈夫だから」
 どういう事だ?それじゃ、今茶々丸が抱いているこの猫は何なんだ?
「ねぇ、それって本当に君の飼ってた猫なの?」
「当たり前じゃない。飼い主の私が間違える訳ないでしょ。ちゃんと名前入りの首輪も付けてるし」
 そう言われてしまうと反論出来ない。僕は写真と猫をもう一度見比べてみる。
 白くて短い毛、先っぽだけグレーになってる尻尾。首輪はしてないけど、間違いないはず‥‥あれ??
 よく見てみると写真の猫の目はブルーで、ここにいる猫の目は黄色っぽいグリーンだ。もしかして‥似てるだけで違う猫なの?
「とにかくそういう事だから、ごめんね。じゃ、明日学校でね」
 何も返事をしない僕に、同級生は一方的にそう言うと電話を切った。
「今日の苦労は何だったんだよ‥‥」
 僕は携帯を手にしたまま座り込んだ。茶々丸が「兄ちゃんどうしたの?」と聞くが、その問いに答える気力はない。
 茶々丸の腕の中で、人間違いならぬ猫間違いの猫がニャー、と鳴いた。
 そして気付く。
「なぁ、その猫どうしようか‥?」

もう一度公園に引き返して猫を地面に下ろしても、足下にじゃれついて一向に離れる気配がない。どうやらすっかり気に入られてしまったみたいだ。
「ねぇ兄ちゃん、この子連れて帰っちゃだめかなぁ‥」
 すがるような目で茶々丸が僕を見る。そりゃ僕だって可愛いと思うし、このまま公園に置いていくのは可哀想だと思うし、家で飼えればいちばんいいんだけど、お母さんが何て言うか‥‥。
「う〜ん、お母さんに聞いてみないとなぁ。勝手に連れて帰ったらきっと怒られるぞ」
「そうだよね‥じゃ、兄ちゃん聞いてみてよ」
「えっ?」
 何でそういう事は僕の担当になるんだよ。でも茶々丸は携帯を持ってないから、やっぱり僕が電話するしかないのか。
「しょうがないな、じゃお母さんがだめだって言ったら公園に置いていくんだぞ」
「‥‥うん、分かった」
 不服そうな顔をしつつも納得した茶々丸は、下ろした猫をもう一度抱き上げた。家に電話を掛ける僕の横でぎゅっと猫を抱く。
 一方、僕はお母さんにいろいろと小言を言われていた。茶々丸も一緒なの?もうすぐ夕飯なんだから早く帰ってらっしゃい、猫?そんな飼いたいなんて急に言わないでよ、ちゃんと世話出来るの?お母さん面倒見ないわよ、などと言われるのを必死で説得する。
「公園に帰そうとしても離れてくれないんだよ。うん、僕と茶々丸でちゃんと面倒見るから。だから飼ってもいい?」
 五分弱のやり取りの後、何とか家に連れて帰ってもいいというお許しが出た。お父さんにも話して、許可が下りれば飼ってもいいそうだ。
 茶々丸にその事を知らせると、泣きそうな顔がパッと明るくなる。
「やった〜!お前一緒に帰れるよ」
 そう猫に話し掛ける茶々丸に「まだ決まった訳じゃないんだぞ」なんて言う事は出来なかった。

 学校から帰り、部屋に鞄を放り投げるとすぐさま家を飛び出し、大沼先生の家へ向かう。
「先生ー!」
 大声で呼びながら玄関で靴を脱ぎ捨て、部屋に上がり込む。
「お前なぁ、静かにしろってあれだけ言ってるのにまだ分からないのかっ!」
 やっぱり今日も怒鳴られた。でも僕は先生に怒られるのが好きだから、きっと明日もこうやって怒られるんだろう。
「先生先生、あのね、僕ん家猫飼う事になったんだ!」
「は?」
 僕は昨日の出来事を先生に話した。呆れながらも先生はちゃんと聞いてくれる。
「そうか、まぁよかったな。また公園に捨てに戻るような事にならなくて」
「本当だよ。茶々丸なんて大喜びで、昨日一緒の布団で寝たんだよ」
 あれだけ電話で口うるさく言っていたお母さんは、連れて帰った途端、掌を返したように「あら可愛い〜♪」と一目で気に入った。お父さんに話をする時にはお母さんも味方になってくれたので、拍子抜けするほどあっさりとお許しが出た。
 そんな訳で、僕の家には新たな家族が一匹増える事になったんだ。
「それで、今日はその報告か?」
「それもあるけど、今日また依頼が来たんだ!」
「ほぉ、珍しいじゃないか。二日続けて依頼が来るなんて」
「それだけ探偵団の名が知られてきたって事だよ。でね、今回の依頼なんだけど‥‥」

 山口少年、十四歳。
 普段はどこにでもいる中学生だが、彼にはもう一つの顔がある。
 よぉーし、山口少年探偵団、今日も頑張るぞー!


こんなオチですが、いかがでしょうか?
切りどころがなくて、最後は少し長くなってしまいました。
これでもう小話のストックが無くなってしまったので、これからネタが無くなった時は
どうしようかと悩んでいます。
小話のネタはいろいろと考えていますが、まだ書き上がってないので‥。
が、頑張ろう‥。
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by feeling_leaf | 2006-01-19 18:41 | おはなし | Trackback | Comments(0)

猫の行方 3。

 今度は公園の方へ行ってみようと信号待ちをしている時、道路の向こうから聞き覚えのある声がした。
「あーっ、兄ちゃんだ!」
 声の主は弟の茶々丸。ランドセルを背負っているから学校帰りだろう。信号が変わった途端、僕に向かって走ってくる。
「兄ちゃん兄ちゃん、何やってんの?」
 茶々丸は僕の作った山口少年探偵団唯一の団員だ。だけど、まだ小学生の茶々丸に捜査なんて出来るはずがない。いつも僕の後ろをトテトテと付いてくるだけだ。
 本当は一人の方が動きやすいんだけど、連れていかないと騒ぎ出すから厄介なんだよな。
「何って、依頼が来たんだよ。猫を探してほしいって」
 仕方なく僕が答えると、案の定茶々丸は目をキラキラと輝かせる。
「すっげー兄ちゃん!オイラも一緒に探すー!」
 ‥‥やっぱり。
 結局というか当然というか、僕は茶々丸を伴って公園へ向かった。道すがら猫を見かけると、すかさず写真を取り出して見比べる。
 茶々丸も見つける度に「あっ、兄ちゃん猫いるよ!」と教えてくれるのだが、大き過ぎるその声に驚いて猫が逃げてしまうので、ほとんど役には立っていない。
 そのくせ「オイラ腹減った〜」なんて言い出すから、途中コンビニで肉まんを買わされる羽目になった。クソ〜、今月小遣い厳しいのになぁ。
 僕は残りのお金でどうやって今月を乗り切ろうかと悩んでいるのに、そんな事は全く気にせず、隣で「ねぇねぇ兄ちゃん、肉まんおいしいよ〜♪」と満面の笑顔で肉まんを頬張っている茶々丸を見ると、腹が立つような気が抜けるような、複雑な気分だ。
 でも仕方ないか、僕お兄ちゃんだし。

 目的の公園に着き、ベンチに座って僕も肉まんを食べ始める。少し冷めてしまったけど、茶々丸の言う通りおいしかった。
 商店街中を気を張り詰めて歩き回ったせいか、何だか疲れてしまった。肉まんを半分くらい食べたところで、はぁ、と深いため息をつく。本当に見つけられるのかなぁ。僕はちょっと自信を無くしていた。
 そんな時、公園に着くまでにすっかり肉まんをたいらげた茶々丸が、僕の袖を引っ張った。
「ねぇねぇ兄ちゃん、猫がいるよ」
 さっき「大きな声を出すな」と注意したから、声のボリュームは小さい。
 茶々丸の指差す方向に目をやると、そこには滑り台の横に丸くなっている猫が一匹。慌てて写真を取り出す。
 写真と同じく白くて毛は短かめ。尻尾の先がグレーになっている。間違いない、こいつだ!
 僕は写真をポケットに突っ込み、食べかけの肉まんを無理矢理口の中に押し込んだ。
「僕が後ろから捕まえるから、お前は前に回って通せんぼするんだぞ」
「うん、わかった」
 猫が逃げないように声を潜めて打ち合わせをし、なるべくゆっくりとベンチから立ち上がって両方向に歩き出す。ここで逃げられたら今までの苦労が水の泡だ。息を殺して、慎重に猫との距離を詰める。
 茶々丸も少しずつ猫の前に回り込む。両手を広げて、ガニ股で横歩きしてるからまるで蟹みたいだと思って、つい噴き出しそうになるのを我慢した。
 そろりそろり、と忍び足で近付いていく。捕まえるにはまだ距離があるが、だいぶ近付いた。あと少し、あと少し。
 すると、猫が首を上げ、茶々丸の姿をとらえる。茶々丸と猫の目が合った。途端、茶々丸の動きが止まる。
 茶々丸は僕に「兄ちゃん、どうしよう」と目で訴えてきたが、今下手に動くと逃げられかねない。逆に茶々丸に注意を向けさせておけば捕まえやすくなるだろう。
 僕は「そのまま動くな」と目と手で合図し、茶々丸も目で頷いた。
 動けない茶々丸。視線を逸らさない猫。じりじりと近付く僕。緊張はピークに達した。
 今だっ!と猫に手を伸ばす。この瞬間、今日の僕の苦労が報われるかが決まるんだ。
 だが、そんな意気込みと反し、猫はあっけなく僕の手に収まった。そっと抱き上げるとそのまま大人しく僕に抱かれている。どうやら人見知りしないらしい。何だったんだよ、さっきの緊張感は。
「やったね、兄ちゃん!」
 茶々丸にそう言われてやっと嬉しさが込み上げてきた。そうだよな、これで仕事は終わったんだ。あとは同級生の家までこの猫を連れていけばいい。
「あぁ、これで依頼完了だ!」
 僕は猫を高々と抱き上げ、茶々丸と喜びを分かち合った。


今回は茶々丸登場。
果たしてこれを読んでくれてる人がいるのか若干の不安はあるものの、もう少し続きがあるので最後まで載せたいと思います。
ただの自己満足かもしれないけど(苦笑)。
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by feeling_leaf | 2006-01-18 18:56 | おはなし | Trackback | Comments(2)

猫の行方 2。

 図書館で調べた情報はあまり役に立たなかった。猫の分類や特徴、飼い方について書かれた本はあったけど、どういった場所を好むのかはよく分からなかった。
 とりあえず猫がいそうな所を地道に見ていく事にする。公園、路地裏、食べ物屋さんの近く‥そのくらいしか思い付かないけど大丈夫かなぁ。
 でも、やるしかない。行動あるのみ!
 まず商店街へ行き、魚屋さんや洋食屋さんの裏を見て回る。猫を見かける度に同級生から借りた写真と見比べるが、一通り歩いてみてもそれらしい猫には出会えなかった。
 歩いてきた道を引き返しながら、もう一度写真片手に隅々まで覗き込む。
 すると、パン屋さんで呼び込みをしている声が聞こえてきた。
「え〜、只今メロンパンが焼き上がりましたジャガー、焼き立てのメロンパンはいかがですかジャガー!」
 こんな語尾で喋るのはアイツしかいない。ハサミジャガーだ。
 手の部分がハサミになっている怪人なのに、何故か人間社会に溶け込んで暮らしている。僕も友達なんだけど、いろいろと知らない事が多い。
 時々“皆どうしてジャガーがいるのを不思議に思わないのかなぁ”と思う事がある。ま、僕もその中の一人なんだけどね。
「ねぇねぇジャガー、ちょっと聞きたい事があるんだけどさぁ」
「お、山口少年だジャガー、どうしたジャガ?」
「あのね、この猫見かけなかった?」
 そう言って、僕は写真を見せた。
 ハサミジャガーはしばらく写真を見つめ、首を横に傾げながら考え込んだ後、
「ちょっと思い出せないジャガね、たぶん見てないジャガよ」
と答えた。やっぱり商店街にはいないのかな。
「そっか、ありがと。バイト頑張れよ!」
「役に立てなくてすまないジャガ、もし見かけたら知らせるジャガー」
「うん、頼むねー!」
 僕は手を振って、ハサミジャガーと別れた。


昨日の続きです。
キリのいい所がここだったので、今回は短かめ。
ハサミジャガーの部分を書いている時がいちばん楽しかったです♪(笑)
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by feeling_leaf | 2006-01-17 16:15 | おはなし | Trackback | Comments(0)

猫の行方。

 山口少年、十四歳。
 普段はどこにでもいる中学生だが、彼にはもう一つの顔があった。

 学校から帰り、部屋に鞄を放り投げるとすぐさま家を飛び出し、大沼先生の家へ向かう。
 大沼先生は隣に住んでいる探偵だ。
 でも先生に依頼が来ているところを、僕は見た事がない。いつも机に向かって何かを書いている。本当は『自称』探偵なのかもしれない。
 だけど、僕にとっては大好きな『先生』なんだ。
「先生ーっ!」
 大声で呼びながら玄関で靴を脱ぎ捨て、部屋に上がり込む。毎日のように来ているので、勝手知ったる所なのだ。
「お前なぁ、もっと静かに入ってこいっていつも言ってるだろ!」
 先生の怒鳴り声が飛んでくる。これもいつもの事。他の事に怒られるのは嫌だけど、でも先生に怒られるのは嫌いじゃない。
 特に今の僕は上機嫌。怒っている先生にはお構いなしに話し始める。
「先生先生、あのね、依頼が来たんだ!」
「依頼?」
 そう、実は僕も『山口少年探偵団』を結成している探偵なんだ。とはいってもまだ中学生だから、同級生や近所の人に探し物を頼まれるくらいなんだけど。
 でも将来探偵を目指している僕には、どんな小さな事でも大切な仕事だ。
「そう、猫を探してほしいんだって」
 それは同級生の女子からの依頼だった。飼っている猫が突然姿を消し、三日経っても帰って来ないらしい。
 同級生はかなりその猫を可愛がっていたらしく、僕に依頼してきた時は半泣きのような状態だった。「お願い、山口君!」と涙目で言われては流石に断れない。
 しかも今までは自転車の鍵が見当たらないとか、渡しそびれたラブレターを人に見られる前に回収してほしい、といった依頼ばかりで、生き物を捕まえてほしいというのは初めてだ。
 僕にとっていちばん難解で、大きな依頼と言えるだろう。いやがおうにも気合いが入る。
「猫探しか、そりゃまた面倒臭そうだな」
「難しいかなぁ、やっぱり‥‥」
「そりゃ自転車の鍵探すのとは訳が違うだろ。動物なんだからあちこち動き回るだろうしな」
 そう言って、先生は手に持っていたペンで耳の後ろを掻いた。
 それは僕だって分かってる。物と違ってこっちが見つけるまで、同じ場所でじっと待っててくれる訳じゃない。
「迷い猫の貼り紙でも貼るしかねーんじゃないのか?」
「それはもうやったみたい。近所の電柱やお店に写真付きのポスター貼らせてもらったって」
 それでも効果が無かったから僕に頼んできたんだし。
「そうか‥‥じゃ、後は地道にその辺探すしかないだろ」
 やっぱりそれしかないのか。他にもっといい方法がないかと思って先生に聞きに来たのに、出端を挫かれた感じだ。
 そんな事を考えていると、先生が
「ただ闇雲に探すんだったら、その前に図書館にでも行って猫の習性とか調べてみたらどうだ?」
と助言してくれた。そっか、猫の事が分かれば行動パターンが見えてくるかもしれない。
「うん、そうしてみる。ありがと先生!」
 お礼を言って、僕は先生の家を飛び出した。
 後ろから先生の「こら、バタバタ走るな!」って声が聞こえた気がしたけど。


ネタがない時には小話を(笑)。
今回はまぐ探ヴァージョンです。
勝手に作った設定が所々にありますが、広い目で見てやって下さいませ。
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by feeling_leaf | 2006-01-16 19:09 | おはなし | Trackback | Comments(0)